令和の苦言愚言(4)【読書ノート】インフラこそがイノベーションを導く最大の契機である

「インフラ・イノベーション 強くて豊かな国をつくる日本再生プロジェクト」藤井聡・著、育鵬社

平成30年9月26日、ちば測協の設立40周年記念県民講座にお招きした藤井聡先生の新刊です。
タイトルからはインフラをイノベーションすることを想像する方もいるかもしれませんが、内容は、実例をあげながらインフラによる国土のイノベーションの重要性を説いています。

実例は、河川、港湾、下水道、鉄道、エネルギー、水力発電、道の駅、砂防、街路、食、高速道路、基幹航路、空港と多岐にわたります。そしてそれらに基づく提言の根底には、デフレ脱却、経済成長、防災、(地方任せにしない)地方の活性化、エネルギーや食の安全保障など、氏がかねてより提唱し第2次安倍内閣で内閣参与を務めて推進し(ようとし)ていた「国土強靭化」の思想が流れています。(現在では、氏は内閣参与を辞して、政府の外から本著のような提言を積極的に行っています)

本著の中で、まず第一に、国が先導して、それにはもちろんしっかり財政出動して行う必要があると感じたのは、食料の安全保障です。安価だからという理由だけでいたずらに食料を外国に頼ることの危うさは、私のように楽観的な人間でも感じます。
氏は、いかなる国も国民の食糧の確保の重要性を認識している、そのため農業は半政府事業である、農業生産額に対する政府支出は英・仏では4割、スイス米では6割を超えているのに我が国は3割以下という実例を挙げて、食料自給率上昇に向けた戦略を提案しています。(ちなみにスイス・米は食料自給率120%超)

このように、ひとつひとつを見れば「なぜ反対するのかわからない」ほどの素晴らしい提案です。でも、それらの提案に対しては、緊縮財政の壁が立ちはだかっています。政治家も政府もマスコミも、いつか破綻する、これからは成長しない、結局自然災害は防げない、地方は衰退する、改革以外に道はない、グローバル化は避けられない、そんなワードが大好きです。
「あれもこれもはできない」とか言いながら「何もしない」。

それはともかく、先人たちはまさにインフラの力で国土をイノベーションして、安全な国土、便利な生活を私たちに残してくれました。本著で取り上げられいる、富山の砂防事業などはその顕著な例です。戦後復興とか、所得倍増とか、日本列島改造とか、国の方向性を明確に示してくれる政治家がいたことも確かですが、国民が一丸となって「豊かな国」をつくろうという気概がありました。だから行政=官僚にも(今より強い)信念があったと思います。
諦めては終わり、とはよく言われることですが、経済成長や強靭化は諦めてしまっているはなぜなのか。ありもしない財政問題を心配して消費税率はあげなきゃいけないと信じ込むのに、自然災害で同じ国民が亡くならないようにするという当たり前のことはスルーする。南海トラフという国難に対策して国民を守ると、財政破綻という亡国に至る、とか言った経済学者がいましたね。
それだけ洗脳が行き渡っているのかもしれません。

すべては「当たり前の話」なのです。
国とは「国土」と「国民」と「主権」とがあって成り立っている。
「国土」とはインフラそのものであり、「国民」と「主権」というスープラは、インフラのうえでしか存在しえない。
そしてインフラによるイノベーションはスープラによるイノベーションをもたらし無限に循環する。
特に、我が国のように自然災害が多発する「常に変化しようとする国土」は、その国土を保ち安定させる必要がある。
イノベーションとは新技術の導入=投入だけでなく、発想の転換も含む。

ちば測協第7回県民講座に登場いただいた、大石久和先生も、インフラ整備は「国土に働きかけ、国土から恵みを返してもらう行為」であると仰っています。その恵みは、私たちだけのものではなく、私たちの子孫のためのものだと思います。
とりとめない読書ノートになりましたが、藤井氏の本著からも「強くて豊かな国をつくるためには『思想』が必要である。」という思いが伝わってきます。

Categories: 日本のこと